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2006-3-14

考える脳 考えるコンピュータ

ひさびさにブックレビューを更新しました。

Palmの生みの親ジェフ・ホーキンスが人生にかける二種類の情熱。ひとつはモバイルコンピューティング。もうひとつは――「脳」。

氏は幾多の苦難にめげずレッドウッド神経科学研究所や、Numentaという新タイプの記憶システムを研究する会社を設立したりしています。

人工知能の判定方法として有名なチューリングテストですが、人工知能研究が誤った方向にいきがちな理由のひとつがこれ。

わたしが静かに本を読むとき、目に見える行動を何一つとらなくても、あきらかに理解して知識を得たと、少なくとも本人は思っている。(中略)質問して確かめることもできるが、理解は物語を読んだときに起こったのであって、質問に答えた瞬間ではない。この本で主張することの一つは、理解したかどうかは外側から見える行動では判断できないというものだ。

テストするものが「行動結果だけ」だったために、脳がどのように機能しているか(脳のシミュレーション)を疎かにしてしまっている、という意味の主張です。理解とは何かについて解明するのが知性あるコンピュータを作るためのキーで、中国語の部屋の論争にもあるように出力が知的だからといって「理解」しているとはいえないというわけ。

以下いろいろネタばれがあるので、ご注意を。

脳はなぜ最速のコンピューターよりも速くて有用な処理を実行できるのか? 「簡単なことだ」と、脳をコンピューターとみなす人々はいう。「脳は並列コンピュータだ。何十億という細胞が一斉に計算をする。この並列処理によって、生体の脳の処理能力ははるかに高くなっている」

しかし、氏はこれが詭弁だと言います。十分なメモリと高速なプロセッサー、大量の並列処理さえこなせれば知能を備えた機械ができるなんて迷信で、いまの人工知能には根本的欠陥がある、と。

人間は(写真を見てそれがネコかどうか)0.5秒以内に正解を出す。しかもニューロンは反応が遅いから、その0.5秒の間では、脳に入った情報は100個の細胞を通過するだけだ。つまり、脳がこの問題を解くときには、全体として何個のニューロンが関与したとしても(並列に何億とニューロンが関与したとしても)、100回以下の「計算」しかできない。(中略)同じ問題を解こうとするコンピュータは何十億というステップを必要とするだろう。100回の演算では、画面に一文字を表示するのがやっとであり、意味のある仕事をするどころではない。(中略)どれほど高速に動かしても、難問の答えを100ステップで「計算」することは不可能だ。

これだと突っ込みどころがいろいろありそうです。でも、並列処理はある限界を超えると、(いくら並列にしても)総処理時間が短くならなくなるのは確かです。

では「計算」できないとき、どうやって答えを導き出すのか? プログラマーなら思い浮かぶことがあります――そうメモリです。氏は新皮質全体がひとつの記憶システムであって、コンピューターなどではないと主張します。

脳は問題の答えを「計算」するのではなく、記憶の中から引き出してくる。本質的に、答えはずっと昔から記憶されている。何かを記憶からとりだすだけなら、数ステップでできる。

さらに、このニューロンの遅さで現実のさまざまな出来事を瞬時に判断する高速性の理由を、

脳は低レベルの感覚についての予測をたて、あらゆる瞬間に何を見て、聞いて、触っているはずかを前もって期待しているのだ。しかも、それらは並列におこなわれる。新皮質のどの領域も、つぎに何を体験するかを予測しようとする。(中略)ここでいう「予測」とは、ドアについての感覚にかかわるニューロンが、入力を実際に受け取る前に興奮することを意味する。そして、現実の入力が到達したとき、予測された興奮と比較される。(中略)予測と実際の差によって、注意が喚起される。

と推測。階段を踏み外すような気がしたとき、お笑い番組で笑うときなど、身に覚えがある方もいるのではないでしょうか。

このあたりの仕組みは、面白さや興奮、安心感や心地よさ、落ち込みや感激を提供する、いろんな物作りにも活かせそう。

新皮質に注目しながら脳が理解する仕組みを考察していく中、次の注目は記憶の方法です。決まりきったテンプレートを記憶していたのでは効率が悪すぎて瞬時の判断には使えません。そこでキーとなるのが「シーケンス」「分類」「階層化」です。以下、少し長い引用に。

新皮質の領域では、分類にもとづいてシーケンスが組み立てられ、シーケンスにもとづいて分類が修正されるという相互作用によって、両者はつねに変化していき、それが生涯にわたってつづく。これが脳による学習の本質だ。

(中略)

新皮質の領域としてのあなたには、観察しているシーケンスの名前をつぎの階層に伝える役割がある。そこで、紙に「赤赤緑紫橙緑」という文字列を書き、上位の領域に渡す。これを受け取った領域にとって、文字列そのものにはほとんど意味がない。単なるパターンの名前として、ほかの入力と組み合わされ、分類され、さらに高次のシーケンスの一部となる。あなたと同じように、上位の担当者も自分が観察しているシーケンスの進行を見守っている。そして、ある時点で、あなたにこういうかもしれない。「ねえ、もしもぼくに渡すつぎの紙にどの文字列を書こうか悩んでいるのなら、ぼくの記憶では、それはきっと『黄黄赤緑黄』のはずだよ」と。この助言は、実質的に、あなたが入力パターンから見つけるべきシーケンスの指示だ。あなたは最大限の努力をして、このシーケンスが構成されるように入力を解釈しなければならない。

(中略)

人間はある瞬間に網膜に映った像を覚えるのでも、ある瞬間に蝸牛殻や皮膚が受け取ったパターンを記憶するのでもない。新皮質の階層構造によって、物体の記憶は単一の場所ではなく、階層全体に分散されて保存される。さらに、階層の各領域は記憶の普遍の表現を形成するので、新皮質の典型的な領域が学習するのは、普遍の表現のシーケンスが入れ子になったものだ。脳の中には、カップであれ、ほかのどんな物体であれ、具体的な画像は存在しない。(中略)しかし、忘れないでほしいのは、新皮質のどの領域が記憶する普遍の表現も、パターンが階層をくだっていくことで、実際に体験する詳細な予測にかわりうることだ。

そのほか、新皮質の情報の流れ方(逆方向も重要)、海馬の役割についての面白い解釈(187ページあたり)や実際の考えるコンピューターに必要なハードウェア(説明は少し)、倫理、応用、役割など、盛りだくさんの内容になっています。応用例にもっと夢があってもいい気はしましたが:D

この主張が正しいかどうかは分かりません。でも自分がこの本でなにより面白いと思ったのは、「当分は考えるコンピューターなんて無理だよ」とあきらめムードが漂うAIの分野で、「結果が複雑だからといって原理が複雑だとは限らない。原理が分かればもっと早く実現できるはずだ」と果敢に挑戦する氏の姿勢です。それから、直感を疑うことの大事さを改めて感じました。こういう面白い時代に生きてて幸せだと思います。

新皮質は超高速の部品でできているわけではないし、使われている規則もさほど複雑ではない。だが何十億というニューロンと何兆というシナプスを含み、階層的な構造をしていることもたしかだ。理論的には単純だが、数的には巨大な記憶システムによって、人間の意識も、言葉も、文化も、芸術も、科学技術も、そしてこの本も生み出されている。(中略)新皮質は実際に働いている。けっして魔法ではない。その機能は必ず解明できる。そして、それと同じ原理で動作する真の知性を備えた機械は、コンピューターをつくることができたのと同様に、最後には実現される。

Palmの生みの親、人工知能分野の新会社設立へ--PCフォーラムで発表パームの生みの親は脳の研究に首ったけなんて記事も。



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2006-3-8

打ち心地のよいキーボード

ついにメカニカルキーボードを購入しました。ダイヤテックから出ているFILCO ZERO 日本語108キーボード(かななし・黒 FKB108Z/NB)です。使うと、どことなくですが――タイプライターを打っている気分を堪能できます。

FILCO ZERO 日本語108キーボード・かななし・黒 FKB108Z/NB

カチッとした打ち心地もまずまずだし、重く安定していて、テンキー、カーソルキーがついたフルサイズのキーボードながら端の余計なスペースがなくスリムです。USB/PS2接続両方で使えます。

思えばそう、お下がりのパソコン・PC-8801でメカニカルキーボードを触ったのがメカニカルとの最初の出会いでした。あのときは当然のように思っていた打ち心地――PCが変わって以来、二度と感じることのなかったあの打ち心地が――いまここに!

会社ではこんなカチカチいうキーボードはまわりの迷惑になるので使いづらいですが、家専用なら大丈夫。会社でさんざんキーボードを打ったあと、家に帰ってこのキーボードを打つ。その心地よさの差といったら![1]

  • [1]あくまで個人の感覚なので、万人がそう感じるとはまったく思いません。

どのキーボードを買うか迷っている段階では、この手のキーボードとして名高い

Happy Hacking Keyboard Profes 無刻印モデル

も考えたけれど、自分だけが使うPCではないので、キー配置が特殊なのはネック。あと高いのもあって断念(HHK Lite2は安いけど打ち心地がいまいちだったのでなし)。

無刻印キーボードのDas Keyboardも考えました。このキーボードが面白いのは、

Das Keyboardの主要なキー押下圧は45gになっているものの、小指で入力する部分は35gに設定。一方、ShiftキーやTabキーなどの押下圧は55g、Enterキーなどの押下圧は65g、親指での入力を想定して、最下段のCtrl / Windows / Altキー、スペースバー、さらにはNum Lockキーなどの押下圧は80gに調整されているという。この5段階のキー押下圧に対するユーザーの反響が、なかなか好評であると、Guermeur氏は明らかにした。

という押下圧調整の部分。ぜひ触ってみたいけど、触れるところを知りません。打ち心地を確かめないでキーボードを買うわけにはいかないし、あまりスリムじゃなく普通にスペースをくうのもなぁ、というわけで除外。

3000円台の割安メカニカルキーボード登場という記事で紹介されている「日本語109keyメカニカルキーボード DN-88109」や「日本語90keyメカニカルキーボードDN-90JPU」は少し気になったけれど、こちらも試せなかったので除外。

あと、未発売のキーボードだと、全キートップにカラーディスプレイを搭載したキーボード〜ロシアのデザイン会社が開発という記事で紹介されているキーボードも面白いです。操作しているアプリケーションにあわせ、キートップにアイコンを表示したりできます。

しかし、10年後、50年後、100年後もキーボードって使ってるのかなぁ。考えるだけで打てる(しかも打ちたくないことは考えても打たれない)時代が来たときにも「心地よい」と感じたいものです。



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2006-3-5

Yahoo! Widgets

いまさらながらですが、米Yahoo!のYahoo Widgetsを使ってみました。必要かと聞かれるとあまり必要じゃないけど、見栄えがよいので気分転換としては楽しい[2]。デスクトップにカレンダーやら天気予報やらテレビ番組表やらいろいろ表示できます。

これはWindowsマシンのキャプチャ画面――アヒルもWidget。

このWidgetsを開発した会社KonfabulatorがYahoo!に買収された結果、無償公開となったソフトなので、興味があれば気軽に試せます。

  • [2]なんでも楽しむことは大事……という話はまた次回に。


Tag : UI, ツール

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2006-3-2

トリプルクリックと歴史

シングルクリック、ダブルクリックは使ってたけど、自分がこれの実装例を知ったのはごく最近でした。

マッキントッシュが発表されてから二、三年後、まったく新しいワープロソフトを設計していたサードパーティのプログラマのグループが、パラグラフ全体の選択のためにトリプルクリック(すばやく三回クリックすること)を思いついた(このアイデアはヒットして、今や多くのワープロソフトで使われており、半ば標準となった)。

上記はマッキントッシュ物語という1994年発行の本からの引用です。これを読んだあと、すぐに

「へー、じゃあブラウザでトリプルクリックしてみよう」
「あ……できる」

と、ちゃんと段落選択できてびっくり。ささいなことに人とソフトウェアの歴史を感じた瞬間。ちなみにダブルクリックだと単語選択です[3]

  • [3]ダブルクリックの単語選択は日本語に対してはいまいちだけど。

あともちろんMS Wordでも、文章上でトリプルクリックすると段落選択できます。左端の空白部分でダブルクリックしても段落選択になり、そこでトリプルクリックすると全選択(Ctrl+Aと同様)にもなるようです。



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